VPD(=Vaccine Preventable Disease)とは、「ワクチンで防げる病気」の事です。
現在、日本では定期接種として三種混合や麻疹・風疹混合ワクチンなどが実施
されています。 しかし、世界に目を向けた時、日本のワクチン行政ははるかに
遅れているのが現実です。 実際、欧米では水痘、おたふくワクチンなどは公費で
無料接種がおこなわれているところがほとんどです。 また、新しいワクチンの認可も
日本の場合は非常に遅く、今年の2月に日本でようやく任意接種(=有料)として
スタートした肺炎球菌ワクチンは、欧米から10年遅れ、ヒブワクチンに至っては
20年遅れといった悲惨な状況です。 この失われた20年の間に、日本では
毎年数百人の子ども達が細菌性髄膜炎にかかり、命を落としたり、現在も重い
後遺症に苦しんでいます。
世界中に数多くある感染症の中で、ワクチンで防げる病気(VPD)はそれほど
多くありません。 でも、これらの感染症は、もしかかった場合、最悪命を落としたり
後遺症が残る可能性があり、それを防ぐためにワクチンが開発され、世界中で
接種されているのです。欧米では導入されているロタウイルスワクチン、
不活化ポリオワクチン、A型肝炎ワクチンなども日本ではいまだに認可されていません。
ワクチンに関しては、日本は後進国であり、公費で(無料で)受けられる予防接種
のみでは大切なお子様の命を守るには不十分です。 現在、子ども達の命を守る
ために必要なワクチンを公費で接種できるようにしようといった動きが小児科医を
中心としてありますが、法令改正されるにはまだ数年はかかることが予想されます。
無料化になるのを待っていて、もし、これらのVPDに感染し、取り返しのつかない
ことになったら子ども達やその家族にとってこれ以上不幸なことはありません。
当院は、「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろう。」の会の
賛助会員としてこれらの啓蒙活動に関わっていきたいと思います。
ぜひ皆様も、大切な子ども達を守るために、この会のホ−ムペ−ジを見て頂き、
VPDの重大さと予防接種の大切さを知って頂ければと思います。
VPD(ワクチンで防げる病気)について
2010年5月7日
ロタウイルス胃腸炎は、毎年冬から春にかけて乳幼児に多く流行する胃腸炎で、
激しい下痢や嘔吐に伴い、ひどい脱水をおこして入院となったり、けいれん、脳炎
を起こすこともある、乳幼児にとって最も注意しなければならない胃腸炎です。
ロタウイルスは、インフルエンザ、突発性発疹に次いで、小児の脳炎・脳症を起こし
やすいウイルスで、発症年齢が低いほど体にとってのダメージも大きく、重症化
しやすいといわれています。 ロタウイルス自体に効く薬はないため、いったん
ロタウイスル胃腸炎になった場合は、こまめな水分摂取で脱水を防ぎながら自然
回復するのを待つしかありません。
現在、このロタウイルスを防ぐワクチンが生後6週から24週の乳児を対象として
接種可能となっています。 任意接種となるため接種費用がかかりますが、対象
年齢のお子様はぜひ接種を検討されることをお勧めします。 なお、生後24週
までに2回の接種が必要となりますので、接種は遅くても生後3か月までに開始
しないと間に合いませんし、他の重要なワクチンも接種していく必要があるので、
対象は同時接種が可能な方のみとさせて頂きます。
一番お勧めする接種スケジュールは、生後2か月になってすぐにロタワクチン、
ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの3つを同時接種、さらに4週後にロタワクチン、
ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、三種混合ワクチンの4つの同時接種です。
接種時期、費用等、詳しくはスタッフまでご相談ください。
パソコン、スマートフォン、携帯電話からインターネットで診察予約をすることが
できるようになりましたのでご利用ください。
従来通り電話からの予約も可能です。
●パソコン、スマートフォンでご利用の場合
http://kids-ume.com/yoyaku/
●スマートフォン以外の携帯電話でご利用の場合
http://kids-ume.com/yoyaku/mob/

携帯電話用QRコード
おたふくかぜに関しては、 ”大人になってからおたふくかぜになると不妊の原因と
なるので、子供の間におたふくかぜになったほうが良い…” ということを患者さん
からよく聞くことがありますが、これは大きな間違いです。
確かに成人の不妊も大きな問題ですが、それ以前のもっと大きな問題は、おたふく
かぜになることによって、髄膜炎や膵炎といった命にかかわる病気を合併したり、難聴に
なる可能性があるということです。 おたふくかぜによる難聴は、数百人に一人の割合
で発症し、片側の難聴が多いと言われていますが、それでも片方は一生耳が聞こえなく
なります。 おたふくかぜを軽視し、あるいは不妊のことばかり考えて適切な時期に
ワクチンを接種しない、あるいはわざわざおたふくかぜにかかった人のところに行って
おたふくかぜをうつしてもらうなどという行動は、非常に危険なことといえます。
みずぼうそうは有効な抗ウイルス薬があるため、比較的軽症ですむことが多い病気
ですが、まれに脳炎をおこすこともありますし、小児の脳梗塞の主要原因であるとも
言われています。 また、かかった場合は1週間程度はお休みとなりますので、その間、
親が仕事を休むことによって生じる経済的損失は大きいものとなります。
ワクチンの有効率(発症を防ぐ効果)は、おたふくかぜワクチンが95%程度、
水ぼうそうワクチンが70〜80%程度といわれ、いずれも、1回のワクチンでは100%の
効果はありません。 今年はおたふくかぜが大流行していて、ワクチンを1回接種した人
でも発症した人もかなりありました。 どんなワクチンでも、1回で100%の予防効果は
ありませんので、はしか、風疹に関しては、日本でも数年前から2回の接種が義務付け
られています。 おたふくかぜワクチン、水ぼうそうワクチンに関しては、任意接種
(有料)となっていることと、 ”病気としては軽くすむ” と一般に思われているため、
日本では欧米と比較して接種率が低いのが現状ですが、諸外国ではそれぞれ2回ずつ
接種するのが基本となっています。 日本でもこれらのワクチンの無料化に向けての
動きがありますが、実現には程遠い状況です。
当院では、以上のような状況をふまえ、おたふくかぜワクチン、水ぼうそうワクチンの
2回接種をお勧めしています。 特に、おたふくかぜワクチンに関しては、難聴などの
リスクを考えた場合、2回目の接種をされることをお勧めします。 それぞれのワクチン
の2回目の接種スケジュールに関しては、1回目の接種時期により多少変わりますので、
スタッフおよび院長にご相談ください。
おたふくかぜワクチン、水ぼうそうワクチン2回目の接種について
大切な子供達を守るために再度ワクチン同時接種をお勧めします
当院では”ワクチン同時接種は、大切な子供達を病気から守るために一番メリットが大きい接種方法である”という考えのもと、3年前(平成20年10月)よりワクチンの同時接種を積極的にお勧めしています。 当院では多くの方が同時接種を選択されていますが、3月に同時接種に対する誤った報道がされたことでなんとなく不安を感じたり、周りの人から反対されたりして、同時接種を敬遠される方もあります。 先日行われた日本小児科学会総会でも、子供達のために同時接種を積極的に勧めるべきであるという方針に変わりはありませんでした。
ここでもう一度、同時接種に関して詳しく説明し、同時接種に関する誤解を少しでも解消したいと思います。
今年の3月、新聞等で”ワクチン接種後に死亡”、”同時接種で死亡”といった衝撃的な
報道がされましたが、これは、”ワクチンによって死亡した”あるいは”同時接種をしたから死亡した”と受け止められかねない、誤解を招く報道でした。 実際は、この時点でワクチン接種と死亡例との因果関係は全くわかっておらず、その後の専門家会議の結果、これらの死亡とワクチン接種、あるいはワクチン同時接種とは関係がないという科学的な結論が出され、4月にワクチン接種は再開、同時接種も禁止となりませんでした。
日本では、現在、年間約2,500人の乳児(1歳未満児)が、何らかの原因(病気、突然死、
事故など)で死亡しています。 これは、1日あたり約7人の乳児が死亡しているという
計算になります。 2月に肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの費用助成が始まり、これらのワクチンを同時接種する人が急増しましたが、もし同時接種により死亡するのであれば、乳児死亡率は跳ねあがり、年間の乳児死亡数も多くなるはずです。 しかし、検討の結果、ワクチン接種前と後で乳児死亡率に変化はなく、これらの死亡例は、まぎれ込み例
(=何らかの原因で死亡した乳児がその数日前にたまたまワクチンを接種していたが、
ワクチンと死亡との因果関係はない)である可能性が高いという結論になりました。
諸外国では、ワクチン同時接種は当たり前で、それによって死亡率は上がらないという
データがありますが、今回の検討会議でも海外と全く同じ結果でした。 しかし、その科学的な結論に関してはその後ほとんど報道されず、現在でも同時接種が非常に危険だと
誤解している方が大勢います。
肺炎球菌、ヒブによる感染症、百日咳などは乳児が発症した場合、非常に重症化しやすく命に関わります。 個別接種の場合、ワクチンとワクチンの間は最低でも7日間はあけないといけないため、次のワクチン接種までの間にこれらの感染症にかかる可能性があります。 途中で風邪をひいたり、病院のワクチン予約枠がいっぱいでワクチン接種間隔が延びた場合は、その危険性はさらに高くなりますが、同時接種の場合はその危険性を減らせます。 また、病院に行く回数が減るため、他の病気をもらう危険性が減ります。
一方、デメリットとしては、万が一、ワクチン有害事象がおきた場合、どのワクチンが関係
していたのかわかりにくくなる可能性があります。 しかし、実際はワクチンによる有害
事象の大部分は、接種部位の腫れや一時的な発熱がほとんどであり、そのことでワクチン
接種を中止するほどのものではないため、あまり大きな問題ではありません。
同時接種は、最短期間で効率よく必要なワクチンを接種できる最良の接種方法です。
ヒブワクチンは20年前から全世界で2億人以上、小児肺炎球菌ワクチンは10年前から
全世界で3億人以上の乳幼児に接種が行われ安全性が認められているワクチンですが、
日本では2〜3年前にようやく導入されました。 それまでは毎年約1,000人の乳幼児に
細菌性髄膜炎が発症し、そのうち数10人〜100人が死亡、かろうじて命が助かった子供達
の100人以上に重い障害が残っていますが、その事実は今までほとんど報道されていないので皆さんはご存じないと思います。
私は小児科医となって今年で21年目になります。 開業後は同時接種も数多く行い、
肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンに関しては山陰の医療機関の中では一番多く接種して
きましたが、大学病院などでの勤務医時代も含めて、今までワクチン接種やワクチン
同時接種によって死亡、あるいは障害が残った患者さんを経験したことは幸いなことに
1例もありません。 でも、髄膜炎によって死亡したり障害が残った患者さんは何人も経験
してきました。 これらの方が、もし諸外国と同じようにヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン
を接種していたら命が助かっていたであろうと考えると、とても残念に思います。
ワクチンは体にとって異物である以上、全く副作用がないとは言えません。 しかし、
それは本当にまれな例であり、それ以外の多くの人たちはワクチン接種によって、気づか
ないうちに生命の危険から守られているのです。 ワクチン接種、あるいは同時接種に
より重大なことが起こる可能性より、ワクチンを接種しない、あるいは接種が遅れること
で十分な免疫の獲得できず重大なことになる危険性の方が何百倍も高いのです。
大切な子供を守るにはどちらの方がリスクが少ないのか・・・ 誤った情報や科学的に
根拠のないうわさ話に惑わされて、本当に大切なことを見失わないように冷静に判断し、
対応されることを望みます。
B型肝炎ウイルス(HBV)は劇症肝炎、肝硬変、肝癌などを起こす可能性のある肝炎
ウイルスで、その持続感染者(キャリア)は全世界に3億人、日本でも約100万人いると
推測されています。 日本では、従来、HBVの感染経路として、母児感染(HBVのキャリアである母親から出生児への垂直感染)が最重要視されてきており、有効な対策が取ら
れてきましたが、母親以外の家族や他人からの感染(水平感染)に関しては積極的な
対応はされていませんでした。 しかし、HBVは母児間の垂直感染のみでなく、それ
以外のキャリアからの水平感染も起こるとされ、このことが大きな問題となってきています。 実際に近年では日本国内で発生したHBV感染のうち、母児間の感染率は減少
傾向で、逆に外国由来の遺伝子を持ったHBV感染が、その数、割合ともに増加傾向と
なってきています。 これは、海外でHBVに感染した人たちが日本に海外由来のHBVを
持ち込み、HBV水平感染の感染源となっているということです。 今までは、外国由来
のHBV感染などを気にかける必要はあまり無かったかもしれませんが、日本人の生活
向上と多様化により気軽に日本と海外を行き来できるようになった現在、HBV感染の
リスクは以前より格段に増していると考えられます。 最新の研究では、キャリアの尿、
唾液、涙、汗などの体液からもHBVが高率に検出され、実験でもマウスへの感染が証明
されています。 このことは、保育園や幼稚園などの集団生活でHBVに感染する可能性
があることを示し、今まで以上に水平感染に対して警戒しないといけない状況となって
きています。
WHOは、HBV撲滅を目指し、全世界の全出生児に対してB型肝炎ワクチンを接種する
よう推奨しており、現在、全世界の92%の国で出生後すぐにB型肝炎ワクチン接種が
行われています。 日本でも世界標準の接種を目指して、B型肝炎ワクチンの無料接種
を求める運動が始まっていますが、実現にはほど遠い状況です。
この様な状況を考え、当院では今後積極的にB型肝炎ワクチン接種を勧めていきます
ので、ワクチン接種を希望される方はスタッフまでご相談下さい。